変奏曲シリーズ
『ヴィレンツ物語』発表年:1974年8月。発表誌:花とゆめ9月号。
『椿館の三悪人』発表年:1975年8月。発表誌:別冊少女コミック9月号。
『変奏曲』発表年:1976年春。発表誌:別冊少女コミック3〜5月号。
『アンダルシア恋歌』前後編 発表年:1976年夏。プリンセス8〜9月号。
『皇帝円舞曲』発表年:1977年1月。週刊少女コミック8〜9号。
『ランボーとヴェルレーヌのように』発表年:1977年3月。JOTOMO4月号。
『VARIASION』変奏曲外伝 発表年:1978年9月。月刊COMIC JUN創刊号
『変奏曲第2部』発表年:1979年6月。passe conpose(個人本)
『変奏曲第2部-カノン-』発表年:1981年9月。ペーパームーン別冊grape fruit創刊号
『変奏曲第2部-カノン-』発表年:1981年9月。ペーパームーン別冊grape fruit 2号
このシリーズは本来長編である物語を連載出来なかった(竹宮が多忙のため)ので、読み切りや前後編などの短編として発表したものである。原作者は増山法恵氏。本人は漫画家になることを断念し竹宮をプロデュースすることに力を尽くした。増山は自分の暖めた物語を竹宮の絵で、と望み、少しずつ実現していった。毎年のように読み切りは描き続けられ、ファンの間ではこの作品も竹宮の代表作のひとつとなる。この作品固定のファンも数多く、『風と木の詩』と『変奏曲』では作家性(竹宮と増山)の違いがはっきりと判るのも興味深い。
『変奏曲第2部』に関しては物語が途中のまま、続きが描かれていない。その理由は増山の病気のためで、しばらく時間が必要と思われる。(増山は2022年6月30日に他界。残念だが続きが描かれることはもうない)
竹宮の音楽をテーマとする作品群は、増山というアドバイザーがいなければ成り立たない。なぜなら竹宮は音楽に関して聴く耳を持ち勘が良くても専門知識はないからである。増山は竹宮と出会う以前、高校生の時はピアニストの道へ進むはずだった。竹宮は音楽そのものを如何に表現するかに力を尽くした。
【ストーリー】
ここでは主に『変奏曲』のストーリーを紹介する。ヴィレンツという名の音楽都市(ウィーンがモデル)。スペインからの留学生エドアルド・ソルティ(エドナン)がアカデミーの皇子とも言えるヴォルフガンク・リヒター(ウォルフ)に挑む。アカデミーに留学してきたのも、もちろんウォルフが憧れでありターゲットだった。
ライバルである二人の間を音楽評論家のホルバート・メチェック(ボブ)が取り持ち、エドナンを教育するプロデューサー的な役目を担う。スペインの革命などを背景に、真の音楽を求めて命さえ削るウォルフをどこまでも追うエドナン。そして怖れたことがついにやって来る……
Andoromeda Stories アンドロメダ・ストーリーズ
発表年:1980年10月。発表誌:月刊マンガ少年11月号より連載開始。
原作者はSF作家・光瀬龍氏。連載開始後、途中でで誌名を変え、 DUOとなった後も連載を継続。光瀬氏の多忙により原作がギリギリまで届かず、ストーリー展開は竹宮と光瀬氏のコラボレーションのようになっていったが、最初の幻想的な設定は光瀬氏からの発想で竹宮が絵に起こした。地球ではない惑星を舞台にすることの難しさを痛感したという。
機械というものが人間のような有機的なものに混ざり、かつ支配力を持っていくという、ある意味気色の悪い、人が本能的に嫌うような設定は、今考えるとかなり先進的な発想だったように思う。惑星を渡り歩き、銀河系的規模で敵とわたりあう剣士などは、光瀬氏らしい大きな視点と言える。物語の終わりに敵から逃れ、主人公達が到着する星は地球である。SFというジャンルが大きく伸びた時期の物語の広さを思わせる結末だ。ジュブナイルではあるが、充分な大きさを示唆する物語世界である。
【ストーリー】
コスモラリア王国のめでたい日。お祭りさわぎの国民たちは奇妙な果物や生き物と共に暮らす、明るく平穏な、恵まれた王国だった。この日は戴冠する新王と隣国アヨドーヤの王女が結婚する日。誰もが陽気に浮かれる中、ひとりの剣士は、この星が既に危ういことを知っていた。
ある夜、王城に住む人々が眠りの中にいる間に小さな虫がその体内へ入り込み、その精神を支配する。それは国王も例外ではなかった。嫁いだ王妃はそれに気付かぬままに過ごし、双児の王子と王女を産む。しかしコスモラリアでは双児の世継ぎを嫌う風土だったため、侍女は王妃にも秘密裏に妹を外部へ出した。少しずつ周囲の気配が変わっていくことに何かの異変を感じつつも、行動出来ないでいた王妃に、アヨドーヤから迎えに来た兄は恐ろしい事実を告げる。王も周囲も既に敵に侵されているから、すぐに逃げなければならない、と。
王子ジムサはまだ幼かったが不思議な超能力を持っており、助けが来ることを予知していた。その助けとは星の危機を知っていたあの剣士。王国の追っ手から逃れ、王妃と王子は剣士と共に星の命運を知る奇妙な老人の導きを得て、荒野での生活を始める。老人はジムサが長いこと待っていた救世主であるとの確信を持つが、それは長い時の果てに失った星の血筋を辿るものだった。
ジムサは日々の暮らしを守るので精いっぱいだったが、その超能力を見て「自分と同じ…」と気付く少年(実は少女)に出会う。それは本人たちも知らない双児の、運命の出会いだった。
イズァローン伝説
発表年:1982年3月。発表誌:週刊少女コミック5号から連載。
『風と木の詩』の連載を月刊誌や隔月刊誌に移しながら久々に竹宮は週刊誌連載を引き受けた。連載するにあたって、物語世界をどのようなものにするかを増山と相談。今後流行しそうなものとして増山があげたのはファンタジー世界だった。
竹宮は「何でもあり」なファンタジー世界を敬遠(毛嫌い)していて、殆どファンタジー小説も読んですらいなかったが、しぶしぶに取り組み始める。何が嫌いかと言うと、すべてを作り込まなくてはならず、つじつま合わせが大変な上、一ヶ所のほころびであっという間に読者の興味をそいでしまう危なっかしさがあるからだった。当然失敗しないように考えるには相当な努力が必要になる。
4巻目あたりまでは竹宮自身も言うようにハンドリングが上手くいってなかったが、途中で覚悟を決め、如何に終わらせるかを掴んでからはスムーズに運んだようである。実はこの作品は竹宮の作品の中で最も多い発行部数を記録しており、ここから竹宮作品を読み始めたというファンも数多い。『風と木の詩』直後の連載だったことが功を奏したのかもしれない。極端な特徴を持つ他の作品に比べて一般的な人気があったと言えるのではないか。
【ストーリー】
イズァローン王国の王子ティオキアはまだ男女のどちらにも分化していないプロトタイプ(両生態)だった。いとこのルキシュが男に分化したのに、自分が男になると王位継承問題が複雑になる。迷ううちに樹海を隔てた先で他国を平定した王が戻る。父である王から樹海の果ての国イシュカへ和平の人質に行けと命じられ、わずかな供を連れ旅も困難な樹海を越える。
案に相違して歓迎されたティオキアは、高い文化を持つ国の末姫と出会い、これまでに経験のない優しい愛を得る。しかしイズァローン王はこの国が現況では存在してはならぬ国と判断し、圧倒的な武力で制圧した。目前で愛する姫を殺されたティオキアは己に湧き上がる影の心、つまり魔に属する心(激しい怒り)を覚える。父の理不尽な武力行使から逃れ、古代イズァローンを封じ、「魔」を彼に教えた導師と共に、地下へと逃亡する。
地下にはかつて滅びた都市があり、その様から導師が導く知識を得て、魔術を操る方法を身につけ、やむなく成長していくティオキアには魔物を呼び込む容れ物のようなところが芽生えていた……