私を月まで連れてって!
発表年:1981年1月。 発表誌:フォアレディ創刊号より連載開始。
この作品は、少女マンガ史上初めてのレディース誌「フォアレディ」が創刊され、連載を依頼されたのだが、竹宮は少女たちはおろか大人の女性の恋愛にも詳しくない、という理由で年の差カップルを設定したのである。これがその後のロリータ系のマンガの引き鉄になったかどうかはともかく、タイムスリップ出来る超能力を持つ少女が、成長した姿で若い日の宇宙飛行士と恋をし、本当の時間帯へ戻って恋した彼を捕まえる、という設定。そして26歳の男と9歳の少女のカップルがSFコメディを繰り広げる。
竹宮の作品にはコメディは少ないのだが、実は得意!?なのかもしれない。『風と木の詩』と『イズァローン伝説』、ふたつの連載の間にさらにこの作品を置いて同時に連載していた時期があったというのは、よく器用にやったものだという他はない。割に気楽に様々なテーマを扱い、古典SF小説を引用して遊ぶこともしていた。そのためこの作品を読んで古典SFに手を伸ばし勉強? したという読者もいる。
『私を月まで連れてって!』というタイトルには、面白いいきさつがあるという。楽曲『Fly Me to the Moon』のタイトルを竹宮は好きなのだが、和訳したものがどれもピンと来ないので、ある時、英語の出来るアシスタントに竹宮は意味を含めて良く聞いてみたらしい。その結果、「私を月に飛ばせて…連れっていって!くらいの意味かな」というところに落ち着いたと。その後『私を○○に連れてって!』というタイトルがやたらと増えた気がするのは…我々だけ?
【ストーリー】
少女ニナ・フレキシブルは9歳。ちょっとオマセなエスパーである。設定は近未来コメディ。ニナが17歳の姿でタイムトリップしてまだ若い頃の宇宙飛行士ダン・マイルドと出会った。そこで恋に落ちた記憶のまま、ニナは26歳になったダンと現実世界で再び出会う。ご近所さんとしてファミリーとつき合い始めたダンはちょっと美人好きの浮気者。ニナの心配は絶えない。
永遠に二人の年齢差は近づかないけれど、ダンもニナを恋人として少しずつ認識する。その間に起こるSF的な様々の出来事をニナの超能力とダンのフレキシブルな?宇宙飛行士ぶりが解決していく。古き良きSF設定がふんだんに登場するSFファミリーコメディは、SF好きにもSF初心者にも好まれた。
エデン2185 シリーズ
発表年:1984年11月。発表誌:プチフラワー11月号より連載。
この作品は少女マンガ誌上でのSF連載なので、叙情に持っていくべきところだったが、結局竹宮のハードな考え方は遠慮会釈がなく、主人公シド・ヨーハンのシリアスさがシリーズのすべてを支配している。竹宮は宇宙での一般人の暮らしはどんなものか?を具体的に説明してみたかったという。もちろん宇宙にいることを忘れるくらいに快適な宇宙船の中なのだが、「板子一枚下は地獄」という昔の船員たちの言葉と同じく、宇宙船の外は人間が生きられない真空の宇宙。その厳しさが様々のエピソードを軸に語られていく。全5話のタイトルは以下。
『エデン2185』(プチフラワー1984年11月号)
『殺意の底』(プチフラワー1985年1月号)
『エデンの国境』(プチフラワー1985年3月号)
『ふる星のごとくに』(プチフラワー1985年4月号)
『宇宙(うみ)に永遠』(プチフラワー1985年5月号)
【ストーリー】
シド・ヨーハンは身寄りがなく、それゆえに新しい惑星への移民団の一員として応募する。それも宇宙船を動かす側、クルーの一員としてであった。始めは船団の一般人とも親しく交流し、まだ見ぬ新世界への希望に満ちた毎日だった。しかし、太陽系を離れる頃になると、内在していた問題に火がつく。本当に地球を離れて新しい惑星に棲めるのか。疑いを抱き、反乱を起こすクルーの一部。シドは、何にも増して強く「理念が壊れる」ことを怖れた。惑星移民という、人類にとって初めてといっていい挑戦には、強い理念が必要だった。彼は単身、この反乱に一石を投じるべく行動を開始する。
その行動の結末はシドの思うような結果にはならなかった。そのことが船団の中に拭い難いしこりを残す。理想とはほど遠い世界を作ってしまったシドにとって、救いが訪れることはないと思われた。その扉を開いたのは、まだ幼い、一人の少年だった…
『集まる日』シリーズ
発表年:1978年。発表誌:別冊少女コミック1月号。
心を読めるESP(エスパー)のひとりが、同じ能力を持ち一般から疎外感を感じている者たちを集めていく物語。特殊な能力は普通人の社会生活の中では邪魔になるもの。それを力づける仲間という存在。
この作品も後に読み切りでシリーズ化する。大きなストーリーとしては連続しているが、連続して続けられないため(他の連載が続いている)、間を空けて読み切りとして描かれた。読者は気長に続きを待ちながら、キャラクターのその後を心配した。このような描き継ぎ方も、それまでにはあまりなかったと思われるが、やむを得なかった。
『集まる日』1978年 別冊少女コミック1月号
『終笛の遺言』 1979年 週刊少女コミック増刊フラワーコミック
『遥かなり夢のかなた』 1980年 プチフラワー秋の号
『そして、集まる日』 1988年 角川書店刊行の全集に描き下ろし
【ストーリー】
少年結惟(ゆうい)は、自分の奇妙な能力に困り果てていた。隠すために神経的な病気を持つ者としてふるまっていたが、彼が所属するSF研究会では、ESPがどんなものかを皆で検討しあう。皆の勝手な想像に唯惟は「自分がESPだったらそんなことが言えるものか」と恨みに思う。彼は「傍にいて彼をのぞき見ている何者か」を怖れていた。いつかは能力をバラしてしまう瞬間が来て、病院送りになるかもしれない。
学校の実験室でそれは起きる。自分の手から離れない薬品の瓶を、烈しく怖れた結惟は全力(念力をも含めて)でそれを壁に叩きつける。その時はバレずにすむが、怖れのあまりに、結惟は自分の能力を使ってSF研のリーダー終笛を超能力者のように見せかけ、自分と同じような能力を持った終笛がどう行動するのかを知ろうとする。
外部の能力者から連絡を受け取った終笛は、誘われるように会いに出て行く。結惟はそれをテレバシーでのぞき見ながらいざとなれば逃げるつもりでいた。しかし、外部の能力者が支配をもくろんでいると知った終笛は烈しく抵抗。同時に結惟はその意識からはね飛ばされる。
あくる朝、結惟は何事もなかったように目覚める。だが彼は気付いていた。終笛こそ本当の能力者で、彼を導く者なのだと…。